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【あらすじ・感想】万城目学『ホルモー六景』

ホルモー六景

「鴨川ホルモー」の続編。鴨川ホルモーで登場した人物たちの「実はあのとき…」や「実はこんなことも…」を集めた短編6つからなるスピンオフ的な続編になっています。

あらすじ

鴨川(小)ホルモー

京都産業大学玄武組の「二人静」と呼ばれた彰子と定子のお話。

クリスマスイブの夜、どちらからともなく言い出し作成された「北山議定書」。

その内容はいわゆる世の記念日と呼ばれる日を必ず二人で過ごし、どちらかがこの誓いを破るときは、もう一方の要求を必ず飲むというもの。

工学部の彰子は、定子が一度もやったことがないという流しそうめんをするために、流しそうめんマシーンを一から作製して定子の誕生日を待っていた。

誕生日も近づいてきたある日、「自分は恋をしたかもしれない」と定子が打ち明ける。定子の誕生日である6月24日にバイト先の人とデートをするというのだ。

定子は北山議定書に則り何でも彰子の要求も受け入れるつもりでいたが、彼女の口から出てきたのは意外な言葉だった。

「決闘をしましょう」

ローマ風の休日

「8月半ばの日曜日。蝉がやかましく鳴きたてる、陽射しのきつい午後に、僕は生まれて初めてのデートをした。」

イタリアンレストランでアルバイトをしている「僕」と、そこで働き始めたばかりの「楠木ふみ」のお話。

エアコンの故障で急遽アルバイトが休みになった二人。以前夜道を一緒に帰った「お礼」としてデートのお誘いをする僕。なんだか気恥ずかしくなったので、数学科の彼女に夏休みの宿題を手伝ってもらうことにした。

八坂神社で宿題の問題を解き終えると、普段は口数の少ない彼女がいろいろな数学の話を聞かせてくれた。

初めは感心しながら耳を傾けていた僕だったが、嬉々として数学について語る彼女の姿に次第に苛立ちを感じ始める…

もっちゃん

「もっちゃんが恋をした。」

通学電車で恋をした女子学生に、持っていた英語の詩集の切れ端を渡したもっちゃん。当然のように「読めません」と突き返されてしまった。

安倍はもう一度ラブレターを書くようにもっちゃんに促すが、もっちゃんから「安倍も一緒に書くんだぞ」と言われ一緒にラブレターを書くことになってしまった。

便箋を買った帰りに酒屋に寄ったのがよくなかった。筆を進めするための一杯が止まらなくなり、気づくと1時半を回っていた。

まともなラブレターなど書けるはずもなく、もっちゃんが女子生徒の前でひざまずいている絵を折りたたみ封筒にしまったあと、再び畳の上に寝転がった。

目を開けると朝日が差し込んでいた。電車の時間が迫っていたもっちゃんは、慌てて机の上から封筒を取り玄関を出て行った。

ふと、もっちゃんが枕代わりに使っていた座布団のしたに白い封筒を見つけた。中身を見た安倍は思わず息を止めてしまった…

同志社大学黄竜陣

同志社大学の京田辺キャンパスに通う巴は、ある日、教授から書庫にある荷物を取ってくるよう頼まれる。

頼み事を終えた巴が書庫に荷物を戻しにいくと、棚の奥に古びた木箱が置かれているのを目にする。およそ30センチ四方の木箱を開けてみると、あちこち虫に食われた黄色い浴衣が畳んで収まっていた。

襟の部分に手を触れてみると、襟の下でパリッとかすかな音がした。浴衣の中に手を入れるとそこに入っていたのは4枚の手紙だった。

ざっと目を通したところ手紙はすべて英語で書かれており、なんとも奇妙な手紙だった。

1枚目には中央にたった一つの単語しか書かれていないのである。

「horumo」と。

丸の内サミット

京都産業大学玄武組498代会長榊原康と、龍谷大学朱雀団代498代会長井伊直子。

498代目間ホルモー、通称「京極ホルモー」を2年にわたり戦い抜いた二人。繰り返された激戦の数々をして、越後の上杉謙信と、甲斐の武田信玄との戦いに比された二人。ホルモー史に残る好敵手として、都大路にその名を轟かせた二人。

「京極ホルモー」の集結より、3年と半年の歳月を経て、両雄は東京丸の内の新丸ビル5階、合コン席上にて再会したのである。

長持の恋

伏見稲荷の料理旅館「狐のは」で仲居のアルバイトをしていた珠実は、ある日、女将から燈台を取ってくるよう頼まれた蔵の隅に、大きな木の箱が置いてあることに気がついた。

中型の冷蔵庫を横に倒したくらいの大きさのその箱の中には、かまぼこ板を2枚縦に並べたくらいの木の板が入っていた。なんの変哲もない古びた木の板は、裏返すと文字のようなものが書かれていた。

「なべ丸」

人名だろうか、筆で大きく草書体らしき筆使いで書かれていた。電球の下で手にした板を眺めていた珠実は作務衣のポケットから仕事で使っているマジックペンを取り出した。キャップを口でくわえて外すと、「なべ丸」と書かれた面の裏に「おたま」と書き込んだ。

感想

前作「鴨川ホルモー」では描かれていなかった話や、その後のサイドストーリーなど本書を読了したあとはもう一度「鴨川ホルモー」が読みたくなる様々な伏線が散りばめられています。

ホルモーの歴史や芦屋の元カノの話、高村はなぜちょんまげをやめたのか。

それぞれ時系列や目線の違う独立した6編とはなっていますが、ところどころ繋がる仕掛けもありさくさくと読み進めることができました。

最後の章では万城目ファンなら思わずあっとなるあのお店も登場します。